店主さんとの対話メモ 【職人としての古書業とブランディング】

業務終了後など、飲み会や食事会の席で店主さんらスタッフの皆さんとお話させて頂くこともあります。
古書店や古書業界の色々なトピックが現場の一線で働いている方から聞ける機会はそうそう無いので、大変興味深く聞いています。

店主さんの言葉で印象に残ったものの中に、次のようなものがあります。

古書店は職人業なんだな。どうやって付加価値をつけるか、古書を買ってもらった人に他では出来ないベストの満足感をどうやって与えるか。ずっと考えてる。それは楽しいことなんだよ」

「安く売ることが本の商売の魅力じゃないんだ。多少高くてもここで買いたい、という何かを与えられる本屋であること。それは常にお客のことを考える中で生まれるんだな」

マーケティング(ブランド論)の講義で、教授が、
「ブランドを創造するのは、志[こころざし]です」
と言っていましたが、店主さんのいう古書業の魅力とは、まさにこの「志」の勝負なんだな、と思いました。お客のためにどんな貢献ができるか。ただただ考える。
真似できない「志」は、顧客の中で「あのお店でなきゃ!」という強い思いに変わる・・・
それは同じくその教授の別な言葉を借りれば、「ブランドとは思い出の小箱」。
岡康道さんは『ブランドⅡ』*1の中で、このような定義づけを“文学的な表現”とことわった上で、ブランドを「その商品と自分の思い入れ。企業の強い思いがそれをなし得る」と語っています。

ちょっと抽象的になってしまいました。
ともあれ、店主さんは古書業を、そして自分のお店をとても愛しているのだなあ、と強く感じました。
別の古書店さんのHPに、こんな記述がありました。
「本を並べる時、良い人に買ってもらうんだよ、と、声をかけているんです」
古書はお店とお客をつなぐもの。そして、古書は何より、もしかするとお客さんのそばに一生添えられているかもしれないもの。そんな大切な出会いを提供する古書業への思いが、上に書いたような言葉を自然と本に投げかけさせてしまうのかもしれないな、と一人想像しています。
この想像は勝手な想像かもしれないけれど、もしかすると当たっているかも、とも思っているんです・・・
だって、アルバイトの僕ですら、売られてきた本に新しく値付けをし、棚に並べる時、
「良い人に買ってもらうんだよ」
と、心の中でそっと、思わず呟いてしまうものですから。